小夏の大冒険

ちよつとした違和感から世界の秘密へ思考は冒険する

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明るい人

怖かった話その3.


携帯電話は普及していたが、スマホはまだなかった、そんな時代のこと。


果物の消費促進イベント? というようなものに出かけた。
そっち系の消費促進団体? みたいなのが主催していたようだが、何ぶん昔のことでいろいろうろ覚え。
区民ホールのようなとこに集まって、農学や栄養学の学者先生の講演を聞いたり、今イチオシの果物の宣伝をされたり。
で、最後に質疑応答があるようなの。

でも日本の団体なので、話題は日本でとれる果物に限られた。
輸入果物はむしろ主催者にとっては競合、つまり商売敵だった。
講演の前に司会者が挨拶し、場を和ませるための雑談。ついでに、客席のひとりにマイクを向けてこう聞いた。
「あなたの好きな果物は何ですか?」

客もよく空気を読んだものだと思う。
その若い女性は「リンゴです」と答えた。
ここで決して、バナナとかキウイフルーツとかブルーベリーとか、輸入物を挙げてはいけない雰囲気があった。
(キウイやブルーベリーは最近だいぶ国産が増えてきたが、当時はほとんどが輸入だった)

「おいしいですよねーリンゴ」と、司会の女性はにこやかに話を合わせた。

恐らくこの女性は、フリーの司会者なのだろう。30代から40代前半ぐらいの年齢と思われ、その時は白いスーツを着ていた。丸顔でショートカット、ややぽっちゃり体型の見るからに明るそうな人だった。

そう。

どうしたって長い顔よりは丸顔、長髪よりはショート、痩せ型よりは太ってた方が、なぜか明るく見える。
黙ってても明るく見えるのだ。
ついでに声も、低いよりは高い方が。
人相学とかあまり詳しくない人だって、そのぐらいはっきりわかる。

逆に長い顔でロングヘア、痩せ型で低い声の女性がどんなに流暢におしゃべりし、はしゃいでみせても「暗い!」と切り捨てられてしまうのがオチだ。一所懸命喋っただけ損なんである(断定)。

その司会者は司会業という職に就いたことで、その見た目を存分に活かしていた。恐らく彼女にとって司会業は天職なんだろう。

ところでイベントの方であるが、リンゴとかミカンとか梨とか桃とかぶどうとか、それぞれの中にもいろいろな品種がありますよとか、この果物はこんな成分が含まれており体にいいですよとか、はっきり言って果物のプロパガンダ、で最終的には果物が食べたくなるように仕向けるのが目的。
客は望んで洗脳されに行ってたのか……?

極めて筋書き通りにつつがなくイベントは進行していった。
客は子供も含めて大人しく聞いていた。


そして最後に、質疑応答の時間になった。
この質疑応答のやり方が、実はこのイベントのウリでもあった。
通常のように挙手をして質問を発言するというやり方ではない。
イベント専用のケータイサイトが作られており、客は各自のケータイからそのサイトにアクセスする。
アクセスしていくと最後に「質問はこちらから」みたいな項目があって、そこをクリックすると質問フォームが出てくる。
そこに聞きたいことを入力するのだった。

すると。

ステージ上にあるスクリーンに、みんなの入力した質問がずらりと映し出されるしくみ。
当時はこんなんでも画期的なパフォーマンスだったのだ。

どんだけの人数がいたか覚えてないけど、300人は軽かったと思う。
質問も一人で複数してもよかったので、かなりの質問が集まった。
司会者はその中からいくつかをピックアップして、講演者の学者や栄養士の先生に質問するのだった。

──あたしのケータイはなぜかその時電波の入りが悪く、サイトに繋がった頃にはイベントが終わっていた。だから何も入力できず、諦めて会場の様子を見てるしかなかった──

質問を選びながら司会者は言う。
「……じゃあ次、えーと、この質問行ってみましょうかね。おいしい××(果物名)の見分け方を教えてください」
こんな感じで司会者は進行させていった。選ばれる質問は無難なもの、というかぶっちゃけどうでもいいものばかりだった。具体的にどんな質問があったか、今じゃもうまったく覚えていない。

実は。

気になったのは採り上げられた質問ではなく、選ばれなかった質問の方だ。

ずらりと並んだ質問のうちには、かなりの頻度で農薬に関する質問が出ていた。
「果物をたくさん食べるといいとおっしゃるけど、農薬は大丈夫なんですか」
というような内容のが、5~6個に1個はあった。

それこそがみんなの聞きたいことだったんだよね。

あのスクリーン画面をぱっと見ただけで、誰の目にも一目瞭然なことだった。
フツー多数決を重んずるならば、それは当然採り上げられてしかるべきなのに。しかし。

しかし。

司会者はそれをキレイにスルーしていた。

きっと「農薬の話はするな」とか指示が出ていたのだろう。
彼女はそれを忠実に守ったまでだ。

しかしこんなに「多い」質問なんだから、ちょっとひとことでも学者の先生に
「規定の量を守っています」とか「収穫の何日前からは散布しません」ぐらいは言ってもらえばみんなも少しはほっとしたのにと思う。
完全にスルーしたことで、それすらも言えないほどのことがあるのかと、逆に疑惑が深まる結果となった。
みんなはやや腑に落ちない思いを抱えて会場を後にしたのだった。


もしも。

司会者や演者に、農薬に関して少しでも後ろめたい態度がチラ見えするようならまだかわいげがあった。

もしも。

司会者が痩せていたりロングヘアだったり黒い服を着ていたり、少しでも暗そうなスキがあったら、みんなは「あの人陰険そうだから、やっぱり隠すんだわ」と、自分自身を納得させることもできただろう。

しかしあくまでも完璧な明るさをもって、質問にまったく気づかないかのようにふるまう司会者。
それがわざとであることは、みんな気づいてる。
とうとう最後まで、彼女はシラを切り通していた。
明るい人の、いや明るく見える人の内なるドス黒い面を見た気がして、とても怖かった……





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